一杯のラーメン二郎 師走の足音が聞こえてくると北風が骨身に染みるようになって、ついつい仕事帰りに二郎に足が向いてしまう。 店に到着すると、子供二人連れの貧相な身なりのおばさんが一人という小さな行列。 どうやら、俺含めてこの親子三人が次のロットメンバーのようだ。 さて、店内の客が続けざまにどんぶりをカウンターに置き、入れ替わりに俺たち4人が席に着く。 俺の食券は大ブタW。さて、コールはどうしよう。 週末だしここはニンニクをドカッと入れてスタミナをつけようか・・・ 「困りますよ、お客さん!」 弟子の突然の怒号に、俺は呪文詠唱の集中を中断された。 顔をあげると、母親が「トッピングはいりませんので・・・どうかお願いします・・・」と弟子に向かって頭を下げている。 カウンターの上には「小」の食券のみが一枚。 どうやら、一杯の二郎を親子三人で分けて食べたい、ということらしい。 重大なロット違反――ギルティー。 俺の体内に蓄積されたカネシが急速にアドレナリンに変化してゆく。 しかし、とつとつと身の上を語り始めた母親の話を聞くにつれ、俺の破壊衝動は急速に萎えていった。 この母子は父親を事故で亡くし貧しい暮らしをしており、その命日に父親の好きだった二郎を食べるのが 年に一度の精一杯のぜいたくなのだそうだ。 その話を聞いて弟子も黙ってしまった。店内に、いたたまれぬ沈黙が訪れる。 そのとき。 どんっ!と店主が母子の前にどんぶりを置いた。 それは、見事なまでの大ブタWにトッピング全チョモの二郎であった。麺も、通常の大の1.5倍は入っているだろう。 「ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・!」と、何度も何度も頭を下げる母親の姿、 美味しい、美味しいと言いながら赤い頬を寄せ合い二郎をほおばる子供達の表情、 そして店主の心意気に、店の外の行列からも嗚咽が漏れる。 俺の大ブタWニンニクマシマシの二郎にも頬を伝った涙が落ち、いつしかカラメが追加されていた。 母子は腹をさすりながら、半分以上残して店を出て行った。 _(:3」z)_PR