我慢の人形 あるカップルが結婚して、もう60年が過ぎようとしていました。 夫婦は何でも分かち合い、何でも話し合いました。 ふたりの間には秘密はありませんでした。 ……たったひとつのことを除いては。 妻はクローゼットの上に靴箱を置き、夫に「絶対に中を見たり、 それについて尋ねたりしないように」と約束していたのです。 長年の間、夫はその箱について考えもしませんでした。 ところが妻が病気で倒れ、医者からもう回復するみこみが ないと告げられたのです。 夫はふたりのさまざまな事柄を整理することにし、靴箱を妻の寝床まで持ってきました。妻も中に何が入っているか、言うべきときが来たと同意しました。 箱を開けてみると、中からは、かぎ針編みをした人形が2体と、9万5000ドルもの札束が出てきました。 この中身について夫が尋ねると、妻は答えました。 「私たちが結婚したとき、祖母から幸福な結婚の秘訣は言い争いをしないことだと言われたの。もし夫に腹が立っても、黙って言い返さず、人形を編んでおきなさいとね」 それを聞いた夫は心を揺さぶられ、目に浮かぶ涙をこらえました。 貴重な人形が2つ箱にある…。それはつまり、今まで妻は2度だけ腹を立て、この60年間もの長い間、自分に尽くしてきてくれたのだ……。 幸せな気持ちで満たされた夫は、さらに問いかけました。 「人形の説明はそれでつくけど札束は?この大金はいったい どこからやってきたのだろう?」 「ああ、それはね」 妻は続けました。 「そっちは、人形を売って稼いだお金よ」 _(:3」z)_PR